DXの進展に伴い、業務効率化ツールの導入は年々加速している。AIを活用したツールを導入することで、業務にかかる時間を大幅に短縮し、経営に大きく貢献することも期待できる。
一方で、中小企業にとっては導入コストや手続き面でのハードルが高く、導入を断念するケースも少なくない。そこで活用を検討したいのが、「デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)」である。
本補助金を活用することで、業務効率化ツール導入時の負担を軽減し、事業全体の生産性向上につなげることが可能となる。ただし、申請にあたっては必要な手続きや全体の流れを正しく理解しておく必要がある。
本記事では、デジタル化・AI導入補助金の基礎情報を整理しつつ、株式会社善略 代表取締役・小田貴志氏に話を伺い、導入までのプロセスを解説していく。
■ デジタル化・AI導入補助金とは
デジタル化・AI導入補助金は、事業者が単独で申請する制度ではない。IT導入支援事業者と呼ばれるツール提供事業者とパートナーシップを結び、共同で申請を行う仕組みとなっている。
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「デジタル化・AI導入補助金制度概要」よりhttps://it-shien.smrj.go.jp/about/
申請から受給までには大きく9つのステップが存在し、このうちSTEP8までが受給までの手続きだ。STEP9は補助金受給後に行う手続きだが、これを怠ると返還義務が生じるため、申請段階から制度として留意しておく必要があると小田氏は指摘する。
■ 導入までに押さえておきたい3つのポイント
手順に沿って申請をする際に知っておくべき3つのポイントがある。
1.すべてのITツールが対象になるわけではない
デジタル化・AI導入補助金は、ITツールであれば全て対象となるわけではない。大きく分けて5つの枠で申請が可能だ。
・通常枠
・インボイス枠(インボイス対応類型)
・インボイス枠(電子取引類型)
・セキュリティ対策枠
・複数社連携デジタル化・AI導入枠
在庫管理システムや、会計ソフト、ネットワーク監視システム、データ分析など、いずれの枠も『企業活動において業務プロセスの改善が見込めるツール』が対象となる。
例えば会計ソフトを事業者が導入するケースを考えてみよう。
従来、Excelを用いて領収書や請求書の内容を手入力していた企業では、入力作業に多くの時間を要していたはずだ。しかし、領収書や請求書をカメラで読み取り、自動仕訳が可能な会計ソフトを導入すれば、手入力作業を大幅に削減でき、業務効率化につながる。このようなケースであれば、インボイス枠(インボイス対応類型)に該当し、受給できる可能性が高い。
一方で、以下のようなケースは対象外となると小田氏は指摘する。
「Instagram広告やWeb広告の出稿費用に補助金を使おうとするケースです。IT関連であれば何でも対象になると誤解されがちですが、補助金が適用されるわけではありません」
対象要件については公式サイトに詳細が掲載されている。自社の導入予定ツールが要件を満たしているか、事前に必ず確認することが重要だ。
2.デジタル化・AI導入補助金は「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで申請
通常の補助金と少し異なるのは、事務局に登録された『IT導入支援事業者』と共同で申請を行う点だ。
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「デジタル化・AI導入補助金制度概要」よりhttps://it-shien.smrj.go.jp/about/
IT導入支援事業者の選び方は様々だが、小田氏のようなコンサルティング会社に依頼をして導入の支援をしてもらうケースもあれば、ツールを開発している事業者が、IT導入支援事業者として登録されているケースもある。選び方については別途記事で詳しく解説するが、現段階では「パートナーシップを結び申請をするもの」と覚えておくと良いだろう。
3.対象ツールは事前に検索できる
導入を検討しているツールが補助金対象かどうかは、事前に調べることが可能だ。
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「トップページ」よりhttps://it-shien.smrj.go.jp/
検索方法は簡単。画像右上にある「ITツール検索」をクリックする。
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「トップページ」よりhttps://it-shien.smrj.go.jp/
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)」
https://it-shien.smrj.go.jp/search/
補助金を活用して導入したいツール名が判明していれば、検索画面に商品名を入力することで他社の導入状況を把握できる。ツールだけではなく、IT導入支援事業者を判断する材料としても活用できる。
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)」
https://it-shien.smrj.go.jp/search/
デジタル化・AI導入補助金2026 HP「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)」
https://it-shien.smrj.go.jp/search/
このツールを活用し、IT導入支援事業者の名前を検索すれば、どのような分野に精通しているかを確認できる。申請前に検索ツールを活用して、効率的に進めるのが良いだろう。
申請期日について
2026年3月30日より、2026年の申請がスタートした。今年度の申請スケジュールは以下の通り。
複数社連携デジタル化・AI導入枠以外は、1次〜4次まで共通のスケジュールで申請を行える。8月まで募集は行われているので、準備が整っていない事業者は適切なタイミングで申請を行うと良い。ただ、いずれのスケジュールであっても、申請において最も負担となるのが書類作成だ。
書類自体は短期間で作成できるものの、記載内容には細かな注意点が多い。そのため、デジタル化・AI導入補助金の申請支援を行う事業者に依頼するのも有効な選択肢だ。小田氏の場合、必要書類だけでなく、自社に最適な申請のポイントも丁寧に指導します次のようなサポート体制で対応をするとのこと。
ただし、内容が不十分な場合は不採択となる恐れがあるため、余裕を持った対応が必要だ。特に申請期限ギリギリに申請手続きを行うと不備が見つかる可能性がある。余裕をもって対応することが重要だ。手続きの不備を防ぐため、事務局がハンドブックを公開している。参考にしておくと良いだろう。
交付申請マニュアルはこちら
https://it-shien.smrj.go.jp/pdf/it2026_manual_kofu.pdf
■ 申請以上に重要な心得
デジタル化・AI導入補助金で特に注意すべき点は、「導入して終わり」という考え方を持たないことである。
「申請が通り、補助金を受け取った時点で完了と考える事業者もいますが、それは非常に危険です。場合によっては補助金の返還を求められる可能性もあります」と小田氏は警鐘を鳴らす。
補助金は、あくまで事業効率化を支援するための制度であり、事業利益を補填するものではない。
受給後も、補助金をどのように活用しているかを適切に示す必要がある。一般的に、補助金受給後は5年間の事後報告義務が課される。受給して終わりではなく、継続的に活用状況を報告することが重要だ。
■ 事業者自身が補助金への理解を深める重要性
最後に、小田氏は「事業者自身が補助金について学ぶことの重要性」を強調する。
「コロナ禍以降、不正受給の件数が増加し、事務局も対応に追われています。不正受給が発覚した場合、返還を求められるだけでなく、今後一切補助金を受けられなくなる可能性もあります」
採択率のみを強調する支援事業者の指示に従った結果、意図せず不正受給となってしまうケースも少なくない。最終的な責任を負うのは事業者自身であることを、常に意識しておく必要がある。
こうしたトラブルを回避するためにも、事業者自らが制度を正しく理解することが重要だ。当メディアでは、今後もデジタル化・AI導入補助金に関するさまざまな情報を発信していく。ぜひ参考にしてほしい。
なお、一般的な情報では対応が難しいケースも存在する。そのような場合は、ITコンサルタントの力を借りることも有効だ。善略を経営する小田氏は、業種・規模を問わず、同補助金の豊富な支援実績を持つ。選択肢の一つとして検討するとよいだろう。
記者 山口晃平